【2019年】読書速報&読んだ本の月別ランキング

活動報告

目次

毎月読んだ本の中から、ランキング上位や気になった本をご紹介しています!

【New!】2019年8月 歴史を感じる、小説まつり!

第1位 混乱の中、ほんとうの豊かさを求める、人の願いとは。
第2位 将棋の世界に訪れた、時代の大転換を見届けよ
第3位 たった三十一文字に込められた、想いを胸に生きていく。

2019年7月 じっくり読みたい、きわどい小説特集!

第1位 この年は、未来か、過去か。
第2位 世界でひとつだけ、「変」な「恋」を体験したい!
第3位 ひんやり冷たい夏のミステリー

2019年6月 日本語をじっくり味わう! 古典、学術、エッセイetc。

第1位 短いことばの中にこそ、私たちのほんとうがいるのです。
第2位 子どもの頃の感性に、気づくのは大人になったから。
第3位 こんな大人で、いいんだな。

2019年5月 ノンフィクションやエッセイが好きな人へ!

第1位 まずは、旅に出よう。それから考えたって、遅くない。
第2位 愛すべき日常を、不思議な景色で見てみたい。
第3位 異世界につながる日記帳を手に入れてしまった人になる。

2019年4月 新書を中心にお届け!

第1位 手紙、就職活動、メール…「伝える」ことに挑む、すべての人へ。
第2位 「学問」から、いまの日本が見えてくる。
第3位 そうか、明日がんばれば、いいんだ。

2019年3月 次に読みたい小説を探しているときに!

第1位 幸せってなに? ちょっと変わったシンデレラストーリー
第2位 公然と読める、思想に訴えかけてくる18禁のエロ小説。
第3位 時の流れの前に人は無力だ。しかし時は、人の想いによって進む。

【2019年】読書速報

2019年10月(計測中) 2019年9月までの月平均
読んだ冊数  6 17.3冊
読書時間  25時間 55.5時間
本のチェック件数  75 109.0冊
書籍購入費  13,233円/7 17,015円/24.4冊

New!【2019年8月】歴史を感じる!おすすめ作品Top3(/24冊)

混乱の中、ほんとうの豊かさを求める人の願いとは。

第1位 オリガ・モリソヴナの反語法

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)
オリガ・モリソヴナの反語法 (集英社文庫)
米原万里
発売日 : 2005年10月20日
評価5

この著者のロシアのエッセイが好きで、読む前から楽しみだった本。本書は著者の実体験をもとにしたミステリー風な小説。展開も面白く、一気読みした。特にプラハの授業風景、ソ連の混乱期などの様子は興味深かったところ。対談形式の文章はあまり読まないのだが、これは最後の対談まで、面白く読めた。

芸術の芸術らしさを守るため、私たちには何ができるのか。

もともと、ロシア方面への興味が高いのが、ランキング上位の理由だと思う。また、重要な登場人物であるダンス教師の「オリガ」や主人公のキャラクターも好みだった。強気な女性が好きである。特に厳しい時代背景にあって、人の強さというのが浮き立っていた。

オリガが世界中の地域のダンスを踊れる、というのがよかった。ダンスに限らず、民族ごとに大切にしている文化や想いがあって、それが形となって、芸術として人の中で残っていって欲しい。

本書の中の、有名な劇団に賄賂を握らせて主役の座を得た日本人と、困窮している劇団の関係が、胸に刺さった。名前ばかりが先行し、中身がスカスカになっていては、何のための芸術かわからない。でも芸術のための場が消えてしまっても困る。

オリガのダンスを守るには、私たちはどうしていかなければいけないのか。社会の豊かさについて、想いの及ぶ作品だった。

将棋の世界に訪れた、時代の大転換を見届けよ

第2位 将棋の子

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)
将棋の子 (講談社文庫)
大崎善生
発売日 : 2003年05月15日
評価5

最近の唯一の娯楽は、毎週日曜日のNHK将棋トーナメントである。将棋ができなくても、なんとなく戦いを見ているだけで楽しい。知っている棋士が増え、ドラマを知り、どんどん将棋の世界にはまっていく。本作はドラマもさることながら、有名な棋士の名前もバンバン出てきて、将棋熱がさらにヒートアップ、読後はたまらず、将棋バーに駆けこんでしまった。

将棋の神の手からこぼれ落ちた「将棋の子」のその後に迫る、ノンフィクション。

本作は奨励会という、プロ棋士になるための登竜門でのドラマと、そこで敗れた人たちのその後を追ったノンフィクションである。将棋というテーマであるが、昭和から平成という歴史への転換点も、鋭く描き出しているように感じた。

将棋というと、英才教育や頭の体操にも役立ちそうな日本の伝統的な文化、というイメージに今はなっているが、一昔前は賭博や勝負師などのちょっとやくざな要素もあったのだな、という点が興味深かった。

今のクリーンなイメージを獲得する中に、こぼれ落ちた将棋の天才たちがいた。将棋が今の立ち位置を手に入れたのは、彼らのドラマの上にあるのだなあと思う。そのようなところについ、感情移入してしまう。

強いのはすごい。AIは革新をもたらす。でも、どんなに時代が変わっても普遍的な面もある。勝負をしてみないと分からない、人間味のあるドラマがあればこそ、将棋を見てしまうのだと思う。

いま、本作で新時代として猛威をふるった羽生さんは、無冠の王である。若手の勢いもすごい。新しい時代の行方が、ますます楽しみである。ぜひ最新の将棋事情も読みたいと思う。著者の将棋への想いが心をゆさぶり、将棋界をさらに活気づけるノンフィクションだと感じた。

たった三十一文字に込められた、想いを胸に生きていく。

第3位 恋歌

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)
恋歌 (講談社文庫)
朝井まかて
発売日 : 2015年10月15日
評価4

本書は幕末の時代を舞台にした、歴史小説である。恋歌、というタイトルの通り、物語は恋の短歌が主軸に展開されていく。ある女性の一生に迫る、手紙の告白という形をとっている。どんどん先が気になって読めてしまう。心情や情景描写がうまく、知識がなくても、和歌の味わいやすごさが伝わってきた。

生きる “よすが” は何か。戦乱の世にあって、問われるのは平生。

舞台は幕末~明治期にかけての水戸藩。取材や資料の多さを感じさせる、密度のしっかりした内容で、読み応えがあった。「幕末もの」でも、武士たちの側にいた「女性たち目線」でのドラマを垣間見ることができたのが、おもしろかった。

特に印象に残っているのは、囚われた女性たちが集められた、牢獄でのシーン。和歌を暗誦したり、子どもに勉強を教えたりする人がいる一方で、力づくで少しでもいい場所を取ろうとする人もいる。

世の変わり目の面白さもあるが、そこに浮き上がってくる人間の平生にも、しみじみと見入ってしまった。時代は時代だとしても、同じ境遇で、新しい時代へ漕ぎ出す人もいれば、静かに自らの命を絶つ人もいる。

そんな中で、命を絶つ前の、辞世の句が胸にしみた。たった三十一字、もし人がそれだけを抱きしめてあの世に行くのだとしたら、何が詠めるのだろうか。なんとも余韻の残る登場人物たちの去り際が、そんなことを考えさせる作品だった。

ランキング外、気になった作品をご紹介!

第6位 チーズはどこへ消えた? スペンサー・ジョンソン 評価4

読みたいなーと思っていたが、たまたま、泊まったホテルのロビーの本棚で出会うことができた。お店や街中とかで、すごい本との出会うと、さらに印象深くなる。

しかも、この本を読んだ後で、一緒に旅行に来ていた母と祖父母に、仕事を辞めてこの仕事を始めたことをカミングアウト。私も印象深いが、彼らにとっても忘れられない本となったことは間違いない。

「恐怖がなければ、何をするか」

誰もが苦戦を強いられる、恐怖との戦い方を教えてくれる本。毒にも薬にもなりそうな、読むタイミングがものをいう本。

第10位 やめて! デイビッド・マクフェイル  評価4

これも、旅先で出会った本(絵本)。長野県の安曇野市にある絵本美術館。たくさんの絵本があって、その中で見つけたものである。

絵本である。ほとんど文字がない。絵だけでストーリーが進み、どの国のどんな人が読んでも、理解できる。構成がシンプルで、メッセージが強く、感動した。

この三文字が、約束する平穏が、世界中にどれだけあるのだろう。

第14位 宮沢賢治のおはなし (10) オツベルと象 宮沢賢治 評価4

知り合いの男の子(小学四年生)が夏の読書感想文のために読んでいたのを、読んでみた。文章中に出てくる、独特のリズムや擬音語が、小学生の頃に読んだな~と懐かしく思った。

オツベルが象をおだててこき使い、やがて象の大群にぺちゃんこにされる話。男の子の読書感想文には、「オツベルが潰されてしまったのは自業自得で、動物には優しくしないといけないなと思いました」。

けれど、大人になって読むと、ゾウがゾウとは思えない。彼はだんだんと報酬を減らされて弱っていき、それでも健気に、労働の楽しさを口ずさむのである。

私たちはオツベルになってもいけないし、象になってもいけない。今の私はそう読んだ。知っている物語でも、そのとき立っている場所によって、まったく違って見えるのだなあと思う。

童話だからと鼻で笑ってはいけない。童話から離れた場所にいる人たちにこそ、物語は必要なのではないだろうか。

【2019年7月】きわどい小説!おすすめ作品Top3(/21冊)

この年は、過去か、未来か。

第1位 一九八四年

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)
一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)
ジョージ・オーウェル
発売日 : 2009年7月18日
評価5

すごい面白かった。著者の手がまったくゆるまず、最後まで突き抜けていて、これはすごいと言われるのが分かった。主張と小説という手法がぴたりと合っていて、小説としても面白く、思想や思考も興味深かった。発表は約70年前というが、考え方は今の日本を生きのびるのに、とても役に立つと思った。

この時代の、ビッグ・ブラザーはどこにいる?

私たちを縛り付けているもの、利用しようとするもの、生き辛くさせているものは何か? ということを考えることが好きなので、この小説はすごく興奮した。本当の自由というのを、思考の中に求めるとき、私たちはうまく現実の隙をつかなければいけない。

この小説は、「ビッグ・ブラザー」という分かりやすい悪者や組織を打ちたててくれている。今の時代にはビッグ・ブラザーはいないけど、だから良い時代なのではなく、悪者はいないのに生きにくい、という現代の方がタチが悪いのではないだろうか。

身近なものの中にも、ビッグ・ブラザーは潜んでいるかもしれない。正気でいるためには、現実に隷従するしかない。一九八四年は過去か、未来か。その分かれ目は、私たちがどこにビッグ・ブラザーを見出すかにかかっているのだ。

世界でひとつだけ、「変」な「恋」を体験したい!

第2位 変愛小説集

変愛小説集 (講談社文庫)
変愛小説集 (講談社文庫)
岸本 佐知子  編訳
発売日 : 2014年10月15日
評価4

「恋愛」小説というよりも、SF並みの「変愛」小説集で、びっくりした。恋愛要素というよりも、SFやファンタジーのある女性向けの小説という感じがした。最初はびっくりしたけど、だんだん慣れていって、最後にはもっとキツいのを……という気持ちになった。バービー人形の話が、お気に入り。

恋愛って、結局、なんなんだ!

本作は「変」愛だけど、そもそも、「恋」愛の正体がわからない。年々、わからなくなる。カップルだからって、恋をしているとは限らないし、ドキドキすれば恋なのかというとそうじゃないみたいだし、人じゃないものや実在しないものに恋することだって、ある。

本作は、ちょっと変な、恋煩いみたいな、こじらせ系が寄せ集められている。いわゆる「まっとうな恋愛」ではない、恋の部分を切り出されていて、そうだよなあ、恋ってこんなんだよなあと思う。

じゃあこれを読めば恋愛がわかるのかっていうとそうじゃなくて、「ますます、恋愛って何なんだ!どうすればいいんだ!」という気持ちになった。状態(線)じゃなくて瞬間(点)なのかもしれないとか、いろいろ考えた。

ただわかるのは、「恋っぽい」気持ちになるのは、なんか気持ちがいいということだ。体や心に、生き物として、よいものを与えてくれる気がする。もういいや、考えるのは、やめよう、浸ろう、恋をしよう。健全にドキドキを味わえる本。

ひんやり冷たい夏のミステリー

第3位 向日葵の咲かない夏

向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)
向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)
道尾秀介
発売日 : 2008年07月29日
評価4

知り合いのイチオシでずっと読みたいと思っていたミステリー。道尾さんの本は、絵本を読んでいてとても悲しい話を書く人だなと思っていたので、やっぱりそんな気分になるかな、と思って読んだ。物語の輪郭がはっきりしていて、「読み終えた感」があるのがいい。リズムがいい。そしてやっぱり悲しくなった。

主人公は、かく語りき。

読むのがちょうど夏だったので、入り込みやすかった。書店でもよく売り出していたけど、夏休みシーズンにぴったりな一冊。

自分が小説を書きたいと思っているので、語り口が切り替わっていく様子とかの構成も興味深かった。語り手というか、切り口というか、「こんな手法もあるんだな」と思う。『神様ゲーム』とも設定や構成が似ているけど、ちょっとだけ違っていて、その違いもおもしろく読めた。

小説って、何を書くかじゃなくて、何を書かないか、な気がしている。何に対して目をつぶるのか。そこに作家の気持ちが反映されている気がする。悲しくて切なくて優しい気持ちになれる本。

4位~6位の作品紹介

第4位 センセイの鞄 (文春文庫) 川上弘美 評価5

高校の頃に一度読んだことがあって、どっぷりハマった大好きな小説。選書するにあたって、ペラペラとめくっていたら、どんどん世界観に引きこまれてしまって実家にあるのにまた買ってしまった。

高校の時はほんとうに胸キュン一筋だったが、いま読むと、物語に流れる時間の速度が、ゆったりと小説ならではの速度で、とても心地よかった。せわしない日々の中で、「本の中に守られている」という気持ちを味わえて、穏やかな時間を過ごせた。

川上弘美さんは、本当に、本の中の世界のほうが現実的に思えるような、安心感を存分に感じさせてくれる人だなあと思う。本を再読する良さも味わえた。好きな小説は、折に触れて読み返したいと思った。

第5位 きいろいゾウ (小学館文庫) 西加奈子  評価4

自分が田舎暮らしに憧れていることもあると思うが、とても食べものや生きものたちがみずみずしく描かれていて、気持ちよく読むことができた。動物たちがおしゃべりなのも、よかった。

会話にくすっと笑えて、読んでいる間も読み終わってからも、元気をもらえる小説だった。夫婦とか、家族とかについてもしみじみ、「いいなあ、こういうの」と前向きになれる。

ゆっくり、マイペースで幸せになろうと思える、気持ちの落ち着く本。

第6位 花宵道中 (新潮文庫) 宮木あや子 評価4

エロいと前評判を聞いていて、どきどきしながら読んだ。ただのエロではなくて、恋愛とミックスされていたので、エロが浮き立って、さらにそれが恋愛の切なさに拍車をかける物語だった。

女性向きの恋愛小説。短編かと思いきや、全体が大きなストーリ―につながっていて、最後まで読み終えたときの満足感も高かった。

遊郭という空間での、こんな情事は昔のことかもしれないけれど、恋愛自体の存在価値というか、パワーみたいなものは、いつの時代もあるよなあと思って、それをこれだけまっすぐにぶつけてくる作品というのが、興味深かった。

▼他の読んだ作品一覧

  • 人生がときめく片づけの魔法 /近藤麻理恵  評価3
  • あふれでたのは やさしさだった 奈良少年刑務所 絵本と詩の教室 /寮美千子 評価3
  • 普及版 モリー先生との火曜日 /ミッチ・アルボム 評価3
  • カレーライスの唄 (ちくま文庫) /阿川弘之  評価3
  • 春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) /アガサ・クリスティー 評価3
  • 子ぎつねヘレンがのこしたもの (偕成社文庫) /竹田津実 評価3
  • 翻訳できない世界のことば /エラ・フランシス・サンダース 評価3
  • カモメに飛ぶことを教えた猫(改版) (白水Uブックス) /ルイス・セプルベダ 評価3
  • ああ、犬よ! 作家と犬をめぐる28話 /杏 他27名 評価3
  • 世界から猫が消えたなら (小学館文庫) /川村元気 評価3
  • 四日間の奇蹟 (宝島社文庫) /浅倉卓弥 評価3
  • 倉敷殺人事件 (徳間文庫) /内田康夫 評価3
  • 青空のむこう /アレックス・シアラー 評価3
  • ユタとふしぎな仲間たち (新潮文庫) /三浦哲郎  評価3
  • 人のセックスを笑うな (河出文庫) /山崎ナオコーラ  評価3

【2019年6月】純文学&エッセイ!おすすめ作品Top3(/15冊)

短いことばの中にこそ、私たちのほんとうがいるのです。

第1位 ひらがなでよめばわかる日本語

ひらがなでよめばわかる日本語
ひらがなでよめばわかる日本語 (新潮文庫)
中西進
発売日 : 2008年5月28日
評価4

おもしろかった。決して情報量は多くないけども、中身が濃かった。日本語やその思想への考察がさらりと書かれているのを、いちいち立ち止まって、「ええー!そうだったの」「ひえーなるほど」と驚いていた。実際に、読んでいて思わず声をあげてしまった言葉も数知れず。

ひらがなで読むと、私たちの心の根っこが、分かります。

ある小説の書き下し文を、漢字ばかりで読みにくいはずなのにすらすら読めたことがあり、「えっなんで?」と思ったら、ひらがなでルビがふってある。「ひらがなってすごいのかもしれない」と思ったので、つい本書を手に取った。

文章を書いたり、じっくり文章を味わったりするのが好きだからか、「ひらがな」の一文字ずつに込められた意味や想いがすごくおもしろく、落ち着いた学術エッセイなのに、ぐらぐらと心を揺さぶられ、手に汗を握りながら、とてもエキサイティングに読んだ。

短い言葉は古く、長い言葉になるほど新しい など、言葉のルールなども知ることができて、とても面白かった。

言葉というのは、数字でも事実でも、どこまでいっても抽象的なものだと思う。文法を知り使えればその言語を理解しているのか、というとそうではなく、バラバラにして語源を学ぶことで、それを使っている人たちの心を知ることができる。

日々、新しい言葉や概念が生み出されていく。洗練されていく概念もあるだろうが、何か本質的なところから離れていくような、あるいは本質的な議論を置いてきぼりにしているように感じる時もある。

実は私たちの実感を支えるのはとてもシンプルなことなのではないか。太古の昔から、私たちの「心」を形どってきた人々の根底にある思いを、「ひらがな」から感じ取りたい。

子どもの頃の感性に、気づくのは大人になったから。

第2位 銀の匙

銀の匙
銀の匙 (新潮文庫)
中勘助
発売日 : 2016年9月28日
評価5

とてもきれいな言葉たちだった。音もよく、しっとりとして、読むだけで気持ちがあわられるような文章。漢詩のようなリズムのよさもあり、一文一文がとても長いのにすらすらと読めてしまうのが印象的だった。(たまに一文が長すぎて、息が止まるかと思うときもあった。)

少年時代の面影をすくう、心地よい冷たい書き味に酔いしれる。

ひらがなの擬音語など、やわらかい表現が多く、耳にも心にも優しく響いた。主人公の世界観に浸るのが心地よく、読んでは立ち止まる、というのを繰り返していたため、長くはない物語だったが読むのに時間がかかった。

周囲から「男らしくない」と言われるも、主人公の少年は、自然や美しいもの、情愛に対する感情は高まっていくばかりである。この時代であってもそうなのだから、現代にこんな人(感傷をもとめて、一人で山に月を見に行き、よよと涙を流す男)がいたらさぞかし生き辛かろう。

憎いのが、この感傷にどっぷりつかっている少年を最大限に見せるために、その筆はとても静かで、鋭いということ。作者の自叙伝的小説であり、もちろん実際の経験がもとにはなっているだろうが、この現実離れした主人公の堂々たる世界観は、ファンタジーのようでもあった。

幼き日、少年だった彼とそれを冷静に書いている彼が、まるで同一人物とは思えない。その間に横たわる時間と現実の重みに思いがいたる。

こんな大人で、いいんだな。

第3位 しあわせしりとり

銀の匙
しあわせしりとり
益田ミリ
発売日 : 2019年4月20日
評価4

可愛らしい装丁そのままに、可愛らしくてやさしい、しあわせのつまったエッセイだった。ミリさんは、体は大人なんだけど、心が子どもの時のまま。弱いところを隠そうとせず、「今日も大変だったなあ」とぽつり。その言葉たちがふわふわと雲のような綿菓子のようなものになり、私たちの心に届きます。

形のないもの、ありふれたもの、幸せにしてしまおう

しあわせって、形のあるもののような気がするけれど、ミリさんの書く文章は、こんな空想の中にもしあわせを見いだすことができるんだよ、と教えてくれる。

私は空想するのは上手ではないのだけれど(雲を○○のかたち!とか、子どもの頃からよく分からなかった。雲は雲にしか見えない)、こんなに空想ができたら、楽しいだろう。

また、ミリさんは友人と桜を見に行ったり、プールに行ったりする。私はそんな友人はいないのだけれど(胸が痛む)、大人になってもこんなふうに過ごせたら、幾つになっても楽しいだろう。

でも、ミリさんのように日常の当たり前の風景や自分の感情を、まじまじと見つめたくなる時というのはあって、きっとそういう時間が、日々の喧騒から、私たちを守ってくれているのだと思った。

大人になったからといって、無理に分かったふりをしなくてもいい。感情を押し殺さなくてもいい。自分の中にいる子どもの手を、大人の自分が引き引き、今日も家路につくのである。

4位~6位の作品紹介

第4位 こころ (新潮文庫) 夏目漱石 評価4

昔、国語の教科書で読んだと思っていたけど、あらためて読み直すとけっこう、うろ覚え。読んでいくうちに、初めて読んだ作品のように「えーどうなるんだっけ」と気になって手が止まらない。おもしろい。

昔書かれた古典なんて、面白くないような顔をしている気がするけれど、下手なミステリーより面白い。名作だからこそ「勉強」したのだが、それがあだになり、正面切って取り上げるのは「今さら」と思ってしまっていた。皮肉である。

大人になってから読んでもふつうに面白い小説でびっくりした。

第5位 奇跡の教室 (小学館文庫) 伊藤氏貴 評価4

さて、2位にランクインしている『銀の匙』を読むきっかけになったのが本書である。興味の赴くままに調べたり、クラスメートと議論したりできる本書の授業を知って、「いいなあ、そんな授業」と思った。

もともと、学生時代から強制感のある「勉強」や「受験」が大の苦手だった。その反発からか、教育にはとても興味を持ってしまう。『窓際のトットちゃん』のような学校があればいいのになと思っている。

子どもというのは「将来のことを考えなさい」と言われてもピンとこない。興味が持てるかどうか、自分の興味を肯定してもらえるかどうか、そんなことで勉強する子になるかどうかが決まると思う。

しかし、それは実は子どもだけに言えたことではない。取らなければいけない資格や、やっておいた方がいい語学。世の中、勉強したくない大人とそれをさせようとする意気込みであふれかえっている。子どもだけじゃなくて大人にこそ、「教育」の視点が役立つのでは。

第6位 魔女とほうきと黒い猫 (角川ソフィア文庫) 菊地章太 評価4

「魔女好き」というほどではないのだが、民俗学や民話、宗教に興味があるので、童話やメルヘンの考察は面白かった。読み終わったら、「魔女好きかも」になっていた。

昔からの物語というのは、それだけ、教訓なり伝えたいことなり、後世に残したいから物語になっているのだと思う。今の時代、魔女はおとぎ話である。私たちが「そんなものは存在しない」と思えば、どんなものでもそうなのだ。

今は魔女だけでなく、非科学的なものたちが絶滅の危機に瀕しているというか、権力の中心から外されて肩身の狭い思いをしている。どちらが正しいということではない。人は根拠に納得するのではなく、納得したいから(あるいは反論するために)、根拠を求めるのだろう。

魔女を信じた人、迫害した人。その目的は何だったのか。消えゆく魔女の行く末を暗闇に追うような、おもしろい本でした。

▼他の読んだ作品一覧

  • 吃音: 伝えられないもどかしさ  近藤雄生 評価3
  • 本を贈る 笠井瑠美子  評価4
  • 世界一おもしろい国旗の本 ロバート・G.フレッソン 評価4
  • どんな絵本を読んできた? 「この絵本が好き!」編集部 評価4
  • 半農半Xという生き方【決定版】 (ちくま文庫) 塩見直紀 評価3
  • ベランダ園芸で考えたこと (ちくま文庫) 山崎ナオコーラ 評価3
  • ツナグ (新潮文庫) 辻村深月 評価3
  • タダイマトビラ (新潮文庫) 村田沙耶香 評価3
  • わたしの主人公はわたし:他人の声に振りまわされない生き方 細川貂々 評価3

【2019年5月】ノンフィクション!おすすめ作品Top3(/15冊)

まずは、旅に出よう。それから考えたって、遅くない。

第1位 遊牧夫婦 はじまりの日々

遊牧夫婦 はじまりの日々 (角川文庫)
遊牧夫婦 はじまりの日々 (角川文庫)
近藤雄生
発売日 : 2017-03-25
評価5

単行本で出ていた同タイトルを、大幅に加筆修正して文庫本にしたという。だからかもしれないが、一歩引いた目線で書かれているのがとても読みやすく、旅の勢いは残しながらも、冷静な語り口で旅の様子を最後から書いている目線がとてもよかった。とにかく語り口が、ものすごく好みだった。

26歳、夫婦での旅出。自由と不安を合わせもつ若者へ、背中を押してくれる本。

旅を生活にしながらライターとしてやっていく、と決めて夫婦で日本を飛び立ったとき、著者は26歳。すぐに旅先で27歳の誕生日を迎える。

自分の方向性や将来について思い悩みながら何かをつかもうとひたすらもがく姿が、舞台は違えど同じ27歳である自分に強くひびいた。若者のもつ「まだ自分は何者でもない」という自由さと不安さ。それが旅や異国に住むという経験を通して、とても丁寧に描写されている。

写真をあえて多用せず、文章で旅の描写をしているところもよかった。しっかりとした描写の後で、実際に写真が見てみたいな、と思ったタイミングでばっちり差し出される一枚のセンスがいい。

人生に迷い、それでもまずは一歩進んでみる。そう決めた若い心を後押ししてくれる本。

まだこの一作目しか文庫本は出ていないが、続きは単行本で楽しめる。著者自身も文庫本で続きを出したい、という思いがあるらしい。文庫本派としては、続きが読める日が待ち遠しい。

愛すべき日常を、不思議な景色で見てみたい。

第2位 ぼくには数字が風景に見える

ぼくには数字が風景に見える (講談社文庫)
ぼくには数字が風景に見える (講談社文庫)
ダニエル・タメット
発売日 : 2014-06-13
評価4

共感覚やサヴァン症候群というのは、聞いたことはあったが、実際に経験している人の話というのは聞いたことがなかったので、とても興味深く読んだ。簡単にいうと数字や記憶力にとてもつよく、計算や語学の習得が一瞬でできる能力。テストのときにこの能力があれば…!と思わず想像してしまう。

どんなに才能がある人でも、周りから理解されなければ、不幸になり得る。

私はこの著者の能力とは真逆で、暗算は遅いし、語学の英単語や歴史の人物などを覚えるのがたいへんに弱い人間である。

そんな自分の苦手なことが、ことごとく著者が得意だったので、その違いがはっきりと分かって、おもしろかった。しかし、私と著者に共通しているところがあって、それは「友達を作るのが苦手」ということ。

よく考えれば、学校でもどこでも、「友達と仲良くしましょう」とは言われるが、その方法を学んだことがない。同じように苦手だった著者が「友情」に対して丁寧に説明してくれていて、それに目が見開かれるような思いがした。

友情とは、相手のことを思いやりながら少しずつ育んでいくものであって、焦ってつかもうとしてはならず、時間をかけて相手のことを考えながら少しずつ進展させていくものだ、ということがわかった。友情はひらひらと飛ぶ美しくはかない蝶に似ている。つかもうとすれば死んでしまう。(p.195)

そういうことだったのか、と膝を打った。私に友達ができない理由がそこに、ありありと書かれていた。(友達の作り方がわからず、すぐにつかもうとしてしまっていた、この年まで)

障壁の多い青春時代を過ごした著者が、周囲との友情を築く上で身をもって学んだことだから、その言葉には威力がある。どんな優秀な人でも、周りからの理解がなければ不幸になってしまうのかもしれない。著者は自らの努力と幸運により、家族や親しい友人からそれを得ることができた。

著者の特殊な環境に目をひかれがちではあるが、そこから学べることは、人間関係に悩む私たちの日常にも、大きく見方を変えさせるものがあると思う。

異世界につながる日記帳を手に入れてしまった人になる

第3位 にょにょっ記

にょにょっ記 (文春文庫)
にょにょっ記 (文春文庫)
穂村弘
発売日 : 2012-01-04
評価4

これは前作があって、『にょっ記』という。この前本屋さんに行ったら『にょにょにょっ記』というのが出ていた。それをみたときに、ぞっとした。このままいくと、次は『にょにょにょにょっ記』になってどんどん長くなって、背表紙に収まりきらなくなってしまう。どうするのか。どうなるんだろう。

どうやって説明したらいいか分からない、「これ読んでみて」としか言えないおもしろさ。

なんと説明したらいいのか分からない本。短歌のスペシャリストだけあって、短文の威力がすごい。心をくすぐられる。日記調の、どこからでも読めるエッセイになっている。

短い文章のよさは行間にあるのだとは思う。この本も、行のあきぐあい、空白のあきぐあいが絶妙。あとはひらがなの音の感じとか、ひらすら同じことばを繰り返してくるところとか。

説明するとどんどん野暮になっていくので、少しだけ引用させて頂きます。

閉店セール(p.13)

近所の洋品店の看板が目にとまる。
「閉店セール」の看板だ。
近寄ってみると、「閉店」という文字の上に赤字で「本当」と書いてある。

(p.52)

腕にとまっている蚊を発見。
反射的に軽く叩いて逃げられる。
しまった。
もっと必殺の心で叩けばよかったか。

母の思い出(p.69)

二十年ほど前の母に云われて驚いた言葉を思い出す。
「四捨五入ってなーに?」

伝わったらいいのですが。少しでもビビッときたら、たぶんお好みだと思います。

4位~6位の作品紹介

第4位 イスラム飲酒紀行 (講談社文庫) 高野秀行 評価4

とにかく血眼になって、旅先でお酒を探しているおじさんの話です。その執着がすごい。薬とかでもそうだけど、「酔う」ことに対してこれだけ率直に、欲求に素直に動けるとこんな面白い話になるんだ、と思った。

というか酒を飲んで酔ってそれを原稿に書けるっていうのがすごい。「酒飲み」と「書くこと」が共存しているのは、理性を保って酒を飲めているということなのだろうか。とにかく、酒飲みを突き抜けたその先にある、人とのかけひき、異国の本当の姿。それを追い求める姿からつい目が離せなくなる本。

第5位 ことばの食卓 (ちくま文庫) 武田百合子 評価4

タイトルのとおり、食卓、食べものに関するエッセイが集められている。思い出のしみついた、食べものの記憶を、その輪郭を丁寧になぞるように描くことで、食べものや思い出が立ちのぼってくる。

子どものころ苦手だった牛乳。戦中の日の丸弁当や、森永のキャラメルの箱。母親になってから娘とデパートで食べたまずいオムレツ。老齢になって夫とふたりで食べたビワ。

かつて私は少女であった、いずれ母と呼ばれるのかもしれない、そしていつか老いにつつまれる日がやってくる。エッセイに出てくる話はすべて昔話なのだが、そのまなざしが捉えたものは、女性たちのいとなみにそったいつの時代も変わらないもの。しみじみとする本でした。

第6位 アイヌ文化の基礎知識 児島 恭子・アイヌ民族博物館 (監修) 評価4

北海道のアイヌについて取材をするため、基礎知識を得たくて読みました。アイヌに興味のある人が最初に読むのにぴったりの本。歴史から文化まで、丁寧に教えてもらえます。さすが、博物館監修だけあって、目線の低いところから、だれにでもわかるように説明してくれます。

衣食住、言葉、神、祭事、猟、歴史など、それぞれの分野に専門の研究者が解説くださっているのですが、その情熱のこもった語り口調に、興味がむくむくとわいてきます。アイヌの文化自体もそうですが、そこに込められた古代の人たちの生活や信条を、私たちが知っておくということは、それだけでも意義のあることではないでしょうか。

ちなみに、監修していたアイヌ民族博物館は現在閉鎖中。2020年の4月に大幅リニューアルにむけて力をたくわえておられます。ぜひ一度、足を運んでみたいです。

▼他の読んだ作品一覧

  • 地のはてから(上)  (講談社文庫) 乃南アサ 評価4
  • 地のはてから(下)  (講談社文庫) 乃南アサ 評価3
  • 手のひらの音符  (新潮文庫) 藤岡陽子 評価3
  • 人質の朗読会  (中公文庫) 小川洋子 評価3
  • はじめての短歌  (河出文庫 ほ 6-3) 穂村弘 評価3
  • プロの尼さん: 落語家・まるこの仏道修行  (新潮新書) 露の団姫 評価3
  • きみはいい子  (ポプラ文庫) 中脇初枝 評価3
  • 緑色のうさぎの話(朝日出版社)道尾秀介 評価3
  • 手から、手へ(集英社)池井昌樹 評価3

【2019年4月】新書特集!おすすめ作品Top3(/16冊)

手紙、就職活動、メール…「伝える」ことに挑む、すべての人へ。

第1位 伝える・揺さぶる!文章を書く!

伝える・揺さぶる!文章を書く!
伝わる・揺さぶる!文章を書く (PHP新書)
山田ズーニー
発売日 : 2001-11-01
評価5

高校生の小論文を指導していた著者の専門は「表現力」。本書では、日常のちょっとした会話から人生を左右する就活や入試の志望理由まで役に立つ、誰かに何かを「伝える」ときに気をつけるポイントがわかりやすく解説されている。

書くことが苦手な人、失敗したことがある人でも、「伝える」ことに前向きになれる本。

何気なく書いた文章が、こちらが意図したように伝わらなかったり、誤解されてしまったりすることというのは案外多い。それは相手に伝えるための「考え方」を十分に習ってこなかったためだ、と著者は指摘する。

伝える前におさえておくべき7つの要件。それがひとつひとつ丁寧に解説される。随所にでてくる例はどれも日常的で間違えたくないものが多いので、とても実用性が高いと思う(議事録の取り方、志望理由書の書き方、お詫び文の書き方、等々)。

語り口が優しく、読み手の悩みに寄り添おうとする姿勢が常にある。まるで授業を受けているような感覚で読み進められる。中学生以上なら十分に理解できるのではないだろうか。

この本が読む人の気持ちを揺さぶるのは、著者が伝えられない人たちに「諦めないで」と呼びかけ続ける姿勢にあるように思う。伝える事や書くことが苦手な人でも、読み終わったら少し書いてみようかな、と前向きになれる、実用性と愛にあふれた本。

「学問」から、いまの日本が見えてくる。

第2位 文系と理系はなぜ分かれたのか

伝える・揺さぶる!文章を書く!
文系と理系はなぜ分かれたのか (星海社新書)
隠岐さや香
発売日 : 2018-08-26
評価5

語り口がやさしく丁寧で、学問に詳しくない人でも読みやすい。理系と文系それぞれのなりたち、各学部における男女比の偏りについて、理系と文系のどちらでもあるような学部が最近増えた背景、などなど、興味深いトピックがあっておもしろく読めた。

進むべき学部を見つけたいとき、履修選択に迷ったときに。雑学としても楽しめる一冊。

学問の栄枯盛衰の筋書きをたどっていくのが、まるで歴史を読みといているようで楽しかった。たんたんとした口調がその激しさを際立たせ、さりげなく述べられる著者の主張にも奥行きを与えていて、「語りたがり」な新書ではないところがよかった。

著者の主張はタイトルに体現されるとおり、理系と文系が「なぜ分かれたのか」ということ。「どちらが優れているのか」ではなく、学問の「役割」の違いを議論しているのが、偏見がなく読むときの重圧になりにくい。つまり、読みやすい。

私は「学び」や「学問」そのものに興味があるので、大学で受けた教養の講義などを思い出しながら、楽しく読むことができた。もし子どもがいる人だったら、学問の発展する方向性や流行などを知ることができ、子どもの進路を理解するときの参考にもなると思う。

中~高校生であれば読める内容なので、大学の進路を決める際に読んでおくのもいい。というか、私も大学受験の前に知りたかった、というのが本音である。大学生が読んでも、履修選択するときの助けになると思います。

そうか、明日がんばれば、いいんだ。

第3位 思わず考えちゃう

思わず考えちゃう
思わず考えちゃう
ヨシタケシンスケ
発売日 : 2019-03-29
評価4

大人気絵本作家ヨシタケシンスケさんの、思わず考えちゃうこと。イラストが可愛いので、作者にはなんとなく明るいイメージを持っていたが、この人、すごくネガティブなんだ!とわかっておもしろかった。最初は日常の「考えちゃうこと」だが、徐々にテーマが深みを増し、独自の哲学にひっぱりこまれる。

なかなか決められない人、ついクヨクヨ考えてしまう人へ。ここにその達人がいます!

あふれでてくるアイデアは、「いいこと考えよう!」ではなく、「これって、もしああなっちゃったら困るな。どうしたらいいんだろう」というネガティブ起因なのである。創作の源というのは、もしかしてそういうネガティブなものの中にあるのだろうか。だとすると、ネガティブ勢には朗報である。

いつもなんとなく受け身に回ることが多い人。くよくよ悩んでしまうことが多く、悩みがちなことにまた悩んでしまう人。この無限ループからどう抜け出せばいいんだ!と思ったらぜひこの本を。

「『明日、もう、ものすごく頑張る!』と思って今日は寝る」というような目からうろこの独自ロジックが展開されていく。もうなんか考えすぎて人生に疲れたとき、どうしても焦ってしまうときに。

ネガティブ哲学とほっこりするイラストの組み合わせがちょうどいい、自分が許せてしまう本。

4位~6位の作品紹介

第4位 ライフワークの思想 (ちくま文庫) 外山滋比古 評価4

初めて世に出たのが1978年、約40年前とは思えない新しく見える本。著者が説く「ライフワーク」を考えるための枠組みは、参考になることが多い。頭を動かすなら、その分体も動かさないといけないとか。忘れてしまうことの方が大事、とか。

教育で「記憶する」ことをしつけられたので、忘れてしまっていい、と言われると嬉しくなる。そんなこと言ったって、大して覚えてもいないのだけど。ご存知「教育」の真逆をいく、読むたびに心の荷物が軽くなる不思議なエッセイ本。

第5位 グレープフルーツ・ジュース (講談社文庫) オノ・ヨーコ  評価4

短い詩集。知人から「これを知らない女の子は不幸だと思うの」と言われて、「えっそうなの」と思わず手に取る。知らないと不幸かどうかはわからないが、たしかに他の本とは異色の本だと感じた。やすやすと本棚に収まってくれる本ではない。

短い本だが、言葉の行間やページとページの間で立ち止まるので、すぐには読みきれなかった。じっくり読んだつもりだったが、最後のページにたどり着いて、思わず、最初からすごい勢いでページをめくり直すことになった。

どのタイミングで「読み」終わったとするかの判断がむずかしい。きちんと著者の言うことをすべて読みとれている自信が、実はない。ともかく、居心地の悪そうに今も本棚にちょこんといる。

第6位 〈弱いロボット〉の思考 わたし・身体・コミュニケーション (講談社現代新書) 岡田美智男 評価4

弱いロボット?それって大丈夫なの?と思ったが、読んで納得。世の中が強いロボットじゃなくて、弱いロボットで満ちあふれればいいのに、と思う。

ロボットと同じように、すごく優秀な何でもできる人間がちやほやされるより、思わず手助けしたくなる弱い人間が、いきいきと過ごせるようになればいい。私たちにも、ロボットにも、できることには限界があるのだから。

どこかにくめない「弱いロボット」たちと、それをとりまく研究の裏話もおもしろい。人間らしいロボットの「研究」を通して、私たちのコミュニケーションにも示唆をあたえる学術エッセイ書。

▼他の読んだ作品一覧

  • キッチン (角川文庫) 吉本ばなな 評価4
  • ヘンリエッタ 中山咲 評価4
  • こちらあみ子 (ちくま文庫) 今村夏子 評価4
  • 河童が覗いたインド (新潮文庫) 妹尾河童 評価4
  • 舞台 (講談社文庫) 西加奈子 評価4
  • 嵐のピクニック (講談社文庫) 本谷有希子 評価3
  • エッセイの書き方-読んでもらえる文章のコツ (中公文庫) 岸本葉子 評価3
  • ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界 (ちくま文庫) 阿部謹也 評価3
  • 弟を殺した彼と、僕。 原田正治 評価3
  • 鴨川ホルモー (角川文庫) 万城目学 評価3

 

【2019年3月】小説祭り!おすすめ作品Top3(/16冊)

幸せってなに? ちょっと変わったシンデレラストーリー

第1位 リアル・シンデレラ

リアル・シンデレラ
リアル・シンデレラ
姫野カオルコ
読了日:03月14日
評価4

40代男性のおすすめで知る。筆者の印象は特に女性の印象を表現するのが上手い人。「こんな女性いる!」と同意しながらその鋭さにドキリとした。表紙や設定が若々しいので若い女性の作品かと思いかけたが、なるほど著者は当時52歳のベテランであった。

主人公は読む人に幸せを問い続ける「幸せの鏡」のような小説

この物語の主人公は、結婚もせず子どももいない。美しい妹といつも比べられ、母親からは厭われ、恋愛もしていないのに周囲からあらぬ噂をたてられる。何重苦に苦しまなければいけないのか、という目を覆いたくなるくらいのシンデレラである。

しかし彼女自身は、幸せをかみしめて生きている。いくらなんでも、それで幸せってちょっとやせ我慢なんじゃないの、と思ったり、いやでもこれが人間の幸福なのかも、と思い直したりする。

彼女を見て気味が悪いと嫌悪する人たちもいれば、肯定的に彼女を「美しい」という人もいある。人によって「幸せ」がちがうのが、寓話的に私たちにも何かを語りかけてくる。主人公は、周囲の人に幸せとは何かを問い続ける鏡に徹する。

 しっかりとした長編小説を読みたいとき、幸せについて考えたいときにおすすめ!

語り手となるライターのルポタージュ風なところと、小説になっているところが交互に出てくる。多重構造で読み応えがある分、ついていくのが少し大変。読むならまとまって読みたい。分厚いのもあるが、読むのにはけっこう時間がかかった。

ルポタージュとしての面白さがまるでミステリーのような印象を与えるので、後半にかけて出てくるファンタジー要素はちょっと唐突に感じたが、ラストのインパクトはこの作品の印象を強く植えつける。(単純な、『めでたし、めでたし』の話ではない。)

シンデレラストーリーってあるけれど、人生はいいところで終わってはくれない。めでたしめでたしのその先、人の幸せについて、考えたくなる本。

公然と読める、思想に訴えかけてくる18禁のエロ小説。

第2位 顔のない裸体たち

顔のない裸体たち (新潮文庫)
顔のない裸体たち (新潮文庫)
平野啓一郎
読了日:03月16日
評価3

読書会でちょっと紹介したところ、大変みなさんの関心をひいたので上位にランクイン。平野啓一郎がどんな人に合うかっていうと、たとえば学生の頃、「先生」ではなく「教師」と呼んでいた人とか、村上春樹が苦手な人とか。筆者の徹底した世間への悪舌が一周回ってクセになる。

「顔」か「身体」か。リアルな日常の「仮面感」に疲れたときにおすすめ。

ある事件の当事者になった女性。普段は教師として「顔」を出し「身体」は服の下に隠して生きているが、ある男と知り合って「顔」だけを隠し「身体」だけを出した動画をネット上にアップされてしまう。

現代人にとって、服の下がほんとうなのか、顔がほんとうなのかを問う。

過激な表現やセリフはテーマを扱う上で「選ばれた」表現なのでそれがメインではないが、表紙にもこっそり警告されているように18禁ではある。人のいるところでは読みにくい。

しかし官能小説ではないので、その気にはならない。筆者のするどい観察眼に裏打ちされた思考を楽しむ小説。

時の流れの前に人は無力だ。しかし時は、人の想いによって進む。

第3位 君の名残を(上・下)

君の名残を (上) (宝島社文庫 (487))
君の名残を (上) (宝島社文庫 (487))
浅倉卓弥
読了日:03月31日
評価4
君の名残を (下) (宝島社文庫 (488))
君の名残を (下) (宝島社文庫 (488))
浅倉卓弥
読了日:03月31日
評価4

上巻は現代の高校生たちの生活から始まるので、入りやすい。ファンタジー展開のわりに、やや硬い文体だな、と思っていたら徐々に歴史小説の色合いを帯びていき、下巻はほぼ歴史小説だった。上巻のフリをみごとに下巻で回収しながら、作者の世界観や主張がしっかりと伝わってくる。

源氏と平家の歴史って何だったの? テスト前の一夜漬けには、開き直ってこれを読もう。

源氏と平家の流れは学校でも習ったが、一族の名前って似ているし親から一字取ったりするし、すごくややこしかった記憶がある。源のなんとかとか、平のなんとかとか、ただのひっかけ問題じゃないか、と今にして思う。

この小説は源平合戦の中でも、ある特定の条件で「選ばれた」人たちにスポットライトが当たっており、主要な歴上の登場人物が覚えやすい。

「なぜ」彼らが選ばれたのかは、この物語の最大の肝でもある。その意図が明かされたときの、ぞわっとする感じがすごかった。鳥肌が立った。歴史を学ぶ上で重要なのは、こういうことだったのかと思わされた。

なぜ、そのタイミングでその事件が起こったのか。歴史という人間の大いなる意志は、何をつかみ取ろうとしていたのか。

上下に分かれており文章も内容も読むのに時間がかかるが、それを裏切らない思想が得られると思う。じっくり読んで、ぜひ歴史の流れに想いを馳せてみて欲しい。

個人的に気になった作品をピックアップ

第5位 駅前旅館 (新潮文庫) 井伏鱒二 評価4

「駅前旅館」というのは、平成生まれとしてはリアルタイムな実感はわかなかったが、こんな風情のある昭和をどこかで見かけたことがあったかもしれない、とおぼろげながら昔の記憶と結び付けて哀愁にかられた。

「駅前旅館」という視点から、戦後の日本人の生活を上手に切り取っている。聞き語りのような文体になっており、エンタメ性は高くないが、その語りっぷりがふつうの人たちの生活を盗み見ているようで面白かった。時代が経つほどに良さが浮き出てくる小説だと思う。

第8位 食器と食パンとペン わたしの好きな短歌 安福望 評価4

イラスト付きの短歌集。ピックアップされている短歌がとにかくよくて、ページをめくるたびに衝撃が駆け抜けた。ページをめくるのが途中からこわいくらいだった。いくつか抜き出しておきます。

  • ぼくはただ あなたになりたい だけなのに ふたりならんで映画をみてる
  • あいうえお かきくけこ さしすきでしたちつてと なにぬねえきいてるの
  • もうダメだ おれはこれから 海へ行く そしてカモメを見る人になる

第10位 光あるうち光の中を歩め (新潮文庫) トルストイ 評価4

キリスト教の教えがわかりやすく書いてある。あるふたりの優秀な若者がいた。一方はキリスト教に、もう一方は俗世にまみれた生活を送る。果たして、どちらが「幸福」なのか、という主題だが、キリスト教の本なのでもちろん前者が肩入れがされています。

主人公がキリスト教に惹かれると、毎回それを察してどこからともなく現れるおじいさんが、そのタイミングのよさに思わず笑ってしまった。読みやすい、初心者向けのキリスト教解説のような感じ。

▼他の読んだ作品一覧

  • 君は永遠にそいつらより若い (ちくま文庫) 津村記久子 評価4
  • 狐笛のかなた (新潮文庫) 上橋菜穂子 評価4
  • 4U(ヨンユー) (幻冬舎文庫) 山田詠美 評価4
  • ゼロの焦点 (新潮文庫) 松本清張 評価3
  • X電車で行こう (1965年) 山野浩一 評価3
  • 殺されたい人この指とまれ (集英社文庫 89-H) 都筑道夫 評価3
  • 九月が永遠に続けば (新潮文庫) 沼田まほかる 評価3
  • だれも知らない小さな国―コロボックル物語 1  佐藤さとる 評価4
  • 死にかけ探偵と殺せない殺し屋 (メディアワークス文庫) 真坂マサル 評価3